教育文化経営学院

「難解な本が読めない」と悩む方へ。自分に合った良書で本物の読解力を養う方法。

「難解な本が読めない」と悩む方へ。自分に合った良書で本物の読解力を養う方法。

本を読もう

「本を読みましょう」。そう言われても、まだ読む力や背景知識が十分に備わっていない段階で、いきなり重厚な文学作品や専門書に手を出しても頭には入りません。最初からドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』や、ラカンの『エクリ』などを読破しようとするのは無理な話です。

もちろん、こうした名著が読めるようになれば世界は大きく広がりますし、誰もが「いつかは読めるようになりたい」と願うものでしょう。では、そのレベルに到達するまで、私たちはどのように本と向き合えばよいのでしょうか。

読めない本は「置いておく」勇気を持つ

難しい本に直面したとき、「入門書」や「解説書」から読み始めるのは一つの有効な方法です。しかし、もう一つ大切なアプローチがあります。それは「今の自分に合った、別の本を読む」ということです。

本を開いて「周知のように〜」と書かれているのに、その内容を自分が全く知らなかったら、とりあえずその本は閉じて構いません。現時点では、あなたがその本の「宛先(想定読者)」にまだ含まれていないからです。あるいは、3ページ読んで内容が理解できなかったり、自分の言葉で説明できなかったりする場合も、無理して読み進める必要はありません。

背伸びをして難解な本と格闘しても、内容が頭に入らないばかりか、最悪の場合は「本を読むこと自体が嫌い」になってしまいます。これでは本末転倒と言わざるを得ません。

「自分の力に合った本」を大量に読むこと

難解な本に固執するのではなく、「今の自分の力に合った本」を大量に読んでいくことこそが、結果として読解力を鍛える一番の近道になります。

自分が理解できるレベルの本を大量に読み込んでいけば、必ず基礎となる力が底上げされます。そうして高まった力をもって再び『カラマーゾフの兄弟』などの名著に挑めば、入門書や解説書に頼らなくても、自然と読めるようになっているはずです。

自分の力に合う本は、書店や図書館で実際に立ち読みをして探してみましょう。少しページをめくってみて、「すっと頭に入ってくる本」が、今のあなたに最適な一冊です。そのような本を大量に読んで、確かな実力を積み上げていきましょう。

試験やレポートのための「背伸び」が陥る罠

私たちは学習を進めるなかで、つい「すぐに役立ちそうな本」を優先して読みたがります。通信制大学での学習であればシラバスに指定された教科書や参考文献、大学院入試や編入学試験であれば志望校の教員が執筆した著書などがそれにあたるでしょう。

もちろん、これらに目を通すことは必要なことです。しかし、もしそれが今の自分の読解力に合っていない難解なものであった場合は、思い切って一度「置いておく」勇気を持つことも大切ではないでしょうか。

内容を正確に理解できないまま、ただ文章の字面を抜き書きしてレポートを書き上げても、決して自分の血肉にはなりません。論文のコンテクスト(背景や文脈)を掴めずにただ文字を追っていても、その研究を正しく評価・批判することはできません。

自らの限界を突破するために、あえて背伸びをして難しい本に挑むフェーズも確かに必要です。しかし、まずは「今の自分に、その難解な本に立ち向かうだけの基礎力が備わっているか」を冷静に見極める視点を忘れないでください。

おすすめの良書:平易な言葉で「質の高い議論」に触れる

簡単な単語を使い、難しい表現を避けていても、決して「話のレベル(質)」を下げていない本はたくさんあります。難解な文体でなくとも、極めて質の高い議論を展開している本を読むことを強くお勧めします。

まずはここから! おすすめの「ちくまプリマー新書」

一般的な新書はまだハードルが高いと感じる方は、中高生や若い世代をメインターゲットにした「ちくまプリマー新書」シリーズがおすすめです。どれも平易な言葉で書かれており、立ち読みでも大まかな内容が掴みやすいのが特徴です。例えば、以下のような本から読まれてみてはいかがでしょうか。

  • 内田樹『先生はえらい』 非常にやさしい言葉で綴られていますが、そこで展開されているのは本質的で原理的な「教育論」です。ジャック・ラカンやレヴィ=ストロース、エマニュエル・レヴィナスといった先人たちの高度な思想が背景にあることが読み取れます。専門的な背景知識がなくても、議論の筋道を追うだけで深い学びが得られる名著です。
  • 伊勢崎賢治『国際貢献のウソ』 「国際協力」や「貢献」の本当の意味を深く考えさせられる一冊です。「第三世界へ行って個人レベルで援助することだけが国際協力ではない。それは外資による公共事業という側面も持つ」といった鋭い指摘には、物事を多角的に見る上で確かな気づきを与えられます。
  • 岡田斗司夫『「世界征服」は可能か?』 遊び心のあるユニークなタイトルですが、中身は非常に実践的な「リーダーシップ論」ならびに「組織論」であり、経営学や社会学の基礎的な思考法を学べる優れた一冊です。

これらはサラッと読める一方で、扱っているテーマは非常に本格的です。まずはこうした良書から、活字や議論に親しんでいきましょう。

侮れない「漫画」の力:一流の作品から文化と人間を学ぶ

「難しくない表現で、質の高い議論や世界観に触れる」という点においては、漫画もまた素晴らしい教材です。「漫画ばかり読んではいけない」と言われて育った世代の方もいらっしゃるかもしれませんが、いわゆる学習漫画の枠を超えて、大人が読むべき名作は数多く存在します。

「漫画の神様」手塚治虫の傑作群

  • 『火の鳥』: 手塚治虫が生涯をかけて描き続けたライフワークであり、最高傑作のひとつです。「黎明編」「未来編」「鳳凰編」など、古代から遠い未来まで時間軸を縦横無尽に行き来しながら、輪廻転生、人間のエゴイズム、そして「生命の尊厳とは何か」という普遍的・哲学的な問いを投げかけます。ひとたび読めば、その壮大な歴史観と人間観に深く心を揺さぶられるはずです。
  • 『ブッダ』: 仏教の根幹となる考え方や世界観を物語として学べます。ブッダ以外の登場人物たちも非常に魅力的で、例えば物語を彩るタッタのような人物の生命力あふれる生き様は、読む者の心に深く刻まれます。
  • 『アドルフに告ぐ』: ナチス・ドイツ時代を中心に展開する重厚な歴史ドラマ。ドイツ人、ユダヤ人、それぞれの「アドルフ」という名を持つ人物が辿る数奇な運命を通じて、第二次世界大戦から現代へと続くパレスチナ問題までを射程に収めた、スケールの大きな傑作です。
  • 『ブラック・ジャック』: 医療の世界を描いた作品であると同時に、人間の生き方や尊厳、そして「教育や指導者(教師)のあり方」を深く問う哲学的な作品としても読み解くことができます。
  • 『陽だまりの樹』: 緒方洪庵が導く「適塾」の熱気ある様子や、当時の若き福澤諭吉の姿が活写されており、幕末の歴史や「教育・学びの現場」のリアルな空気を体感できます。
  • 『ルードウィヒ・B』『ネオ・ファウスト』: 手塚治虫の晩年を彩る絶筆となった作品群。「もし彼が生きていて、この物語が完成していたら、どう続いていたのだろう」と思いを馳せずにはいられない、深い余韻とエネルギーに満ちた名作です。

その他、教養を深めるおすすめ名作漫画

  • 『天才柳沢教授の生活』: 学問と日常、論理と人間の温かみが交差する、深い人間観察に満ちた名作です。
  • 『ベルサイユのばら』 / 『女帝エカテリーナ』: 歴史のダイナミズムや、激動の時代を生き抜く人間の政治・権力構造をドラマチックに学べる、歴史教養の扉としても最適な作品群です。

活字の専門書だけでなく、こうした一流の漫画作品からも、豊かな「文化的な教養」や「深い人間理解・思考力」は確実に育まれます。

背伸びをしすぎず、今の自分にすっと馴染む良書や名作に出会うこと。その日々の豊かなインプットこそが、いずれどんな難解な文献にも立ち向かえる本物の実力となって、あなたを支えてくれるはずです。