教育文化経営学院

マシューズ『発達障害の子どもが変わる食事』

発達障害と食事・代謝システムの関連:ジュリー・マシューズ『発達障害の子どもが変わる食事』を読んで

マシューズ

ここ何回か、発達障害と食事に関わる文献を紹介してきました。2018年くらいから、食事を変えることで発達障害の症状が改善するという本が多くなったように感じていました。 けれども、本書は2012年、原著は2008年の刊行です。自分の勉強不足を深く恥じています。

遺伝と環境、そして「代謝システムの異常」

監修の大森は、発達障害の発生メカニズムについて、遺伝と環境の両面から説明しています。「遺伝的な要因に環境的な要因が引き金となって、発達に課題が生まれてくると説明している報告が増えてい」[マシューズ2012:8]るそうです。マシューズも、「特定の遺伝的な要素をもつ人が環境毒性の被害を受けた結果、障害が発生する」「遺伝子は確かに発達障害発症の原因の一端を担ってはいます。しかし、主要な引き金となるのは環境毒性でしょう」[マシューズ2012:24]と述べています。昨今、発達障害児・者が急増しているとしたら、遺伝的な要因だけでは説明できません。このような説明であれば、昨今の急増も説明できるように思います。

本書では環境的な要因として、有害物質の増加と栄養不足があげられています。となると、栄養学が鍵になるはずですが、日本の栄養学は、そのような観点から深められていないようです。「これまで日本国内では機能的な栄養学による科学的な説明はほとんどありませんでした。日本の栄養学というと、カロリー計算などを中心とする食生活に役立つデータが重要となります。ビタミンのそれぞれが脳神経細胞にどのように働き、子どもたちの行動に関係するかという考察はありません」[マシューズ2012:9]と大森は指摘しています。ですので、この当時は食事と発達障害の関係についての文献が目立たなかったのかもしれません。

食事に注目する前提としてマシューズは、発達障害を心理的な障害ではなく、神経の障害、体内の代謝システムの異常と考えています。発達障害の子どもは、生化学経路、消化、免疫システムに欠陥があるため、体の不調や病気が併発しやすい、ということです。

では、なぜこのような代謝システムに異常が生じるのでしょうか。その原因の一つに、マシューズは化学物質をあげています。「化学物質は身体に直接的に害を与えるだけでなく、遺伝子をも変化させる可能性があります」[マシューズ2012:31]というのがマシューズの主張です。化学の専門的な部分は、十分に理解できていないかもしれないのですが、私が理解できた範囲で紹介していきたいと思います。

マシューズの主張を要約すると、遺伝情報が変わらなくても、どの遺伝情報をオンにする否かで発現する形質が変わってくるそうです。この遺伝情報をオンにするか否かにメチル基が関連しているそうです。DNAのある配列部分にメチル基という化学物質が結合すると、遺伝子がオンにならず、その特性の発現が抑制されます。逆にメチル基が取れると遺伝子はオンの状態になり、その特性が発現されます。つまり、遺伝情報が同じでもその特性が発現する場合とそうでない場合があるというわけです。[マシューズ2012:32-33]

このようなメカニズムになっているとしたら、発達障害の特性を持つ遺伝子を持っていて発現する人とそうでない人がいるということになります。そして、以前は、発達障害の特性を持つ遺伝子を持っていてもメチル基があって発現していなかったけれども、昨今はメチル基が取れて発現する人が増えた、と考えられるのではないでしょうか。

このメチル基を構成する物質として、葉酸、ビタミンB12、コリン、ベタインがあげられています。動物実験では、メチル基を構成する栄養素を妊娠中の母親に投与するとメチル化されて疾病が減ったそうです。

同様のことが発達障害にも起こっている可能性があります。「妊娠中の栄養不足が遺伝子に影響を及ぼし、子どもが成長した際に慢性疾患を発症したり、本書のテーマである発達障害の発症を引き起こしたりする可能性がある」[マシューズ2012:35]というのがマシューズの主張です。

腸管壁浸潤(リーキーガット)と未消化タンパク質の影響

体内の化学反応がどのように起こり、発達障害の子どもたちはどこに問題を抱えているのか、詳細は本書に譲りたいと思いますが、本稿ではもう一点、消化機能の問題を紹介しておきたいと思います。

発達障害の子どもは免疫が正常に機能せず、腸内で真菌やバクテリア等が増殖しやすい傾向にあるそうです。腸内で真菌やバクテリアが増えると炎症が起こり、本来吸収されるはずのない未消化タンパク質が腸壁から吸収されてしまいます(リーキーガット(腸管壁浸潤)症候群)。腸壁が正常に機能していれば、未消化タンパク質は吸収されません。けれども腸壁が炎症を起こしているために、吸収されないはずの未消化タンパク質が吸収されてしまいます。この未消化タンパク質が麻薬のように作用してしまうというのです。[マシューズ2012:39-40]

マシューズは、「乳製品・小麦に含まれる未消化タンパク質が危ない」[マシューズ2012:52]と指摘しています。少し長くなりますが、未消化タンパク質がどのように危ないのか、引用しておきたいと思います。

「自閉症の子はタンパク質を分解する酸素の働きが十分ではなく、グルテンやカゼインを完全に分解できないといわれています。その結果、グルテンがグルテモルフィンという物質に、カゼインがカゾモルフィンという物質に変化します。 グルテモルフィンとカゾモルフィンの分子構造は、アヘンに含まれる麻薬物質であるモルヒネと非常によく似ています。つまりモルヒネと同様に、グルテモルフィンやカゾモルフィンが血液中に入り込み脳に到達すると、麻薬のように作用する可能性があるのです。 モルヒネの使用で観られる症状として、精神の高揚、興奮、痛みに鈍感になる。頭がぼーっとして思考できなくなる、などがありますが、グルテモルフィンやカゾモルフィンが脳内に侵入した自閉症の子どもにも同じような症状が見られます。自閉症の子どもの中には、壁に頭を打ちつけるなどの自傷行動をする子がいますが、これも麻薬作用をもつ物質により麻痺した感覚や思考を自ら刺激しようとしているのだ、という説があります。」[マシューズ2012:53]

乳製品や小麦が麻薬のように作用しているという指摘には驚きました。

特定の食べ物に対する強いこだわりは、食物過敏のサインだそうです。「子どもが同じ食べ物ばかりを異常に欲しがるのを「大好物なのだ」と単純に解釈せず、未消化のタンパク質がもたらす感覚に子どもが“中毒状態”になっているのではないか、と疑う目をもちましょう」[マシューズ2012:66]とマシューズは指摘しています。私の関わったASDと診断されているお子さんにも、食パンとヨーグルトとバナナしか食べないというお子さんがいました。もしかしたら、乳製品や小麦による未消化タンパク質が麻薬のように作用している、ということなのかもしれません。

リーキーガット症候群、すなわち、腸が荒れてしまう理由として筆者があげているのが、早期の離乳食、抗生物質、カンジダ菌の増殖です[マシューズ2012:55]。早期の離乳食の問題について述べられている箇所を紹介しておきたいと思います。

「乳児の腸で母乳以外に含まれるタンパク質を分解できる消化酵素が十分に分泌されるのは、生後1年ほど経ってからのことです。しかし、現代では、離乳食を生後5カ月くらいの早い時期から与えることが推奨されています。乳児には母乳以外の食物を分解する消化酵素が十分にありませんから、離乳食に含まれるタンパク質が未消化になる可能性があります。 乳児のうちは、腸の粘膜も未成熟ですから、分子量の大きい未消化タンパク質があっさりと腸粘膜を通過してしまいます。すると、腸でアレルギー反応による炎症が起こり、未成熟な腸の機能がますます低下すると考えられます。」[マシューズ2012:55-56]

早期の離乳食により腸が荒れ、未消化タンパク質が吸収され、その未消化タンパク質に依存していく、というメカニズムになっているようです。

カンジダ菌の増殖についても紹介しておきましょう。マシューズは、「カンジダ菌の代謝物が最終的に脳細胞を破壊し、脳の構造を変え、発達障害の子どもによくあるような認知障害を引き起こす可能性がある」[マシューズ2012:59]と指摘しています。カンジダ菌の増殖は、体調不良だけでなく、認知障害にまでつながってくるというのです。

マシューズがあげているカンジダ菌増殖の可能性がある症状は以下のものです。

・腹部の膨張 ・頻繁なおなら
・便秘または下痢
・カンジダ性皮膚炎、爪真菌症、水虫など真菌による感染症
・ひじ、ひざ、または性器などの湿った部分のかゆみ
・ぼーっとするなど思考力の低下、記憶力の低下
・慢性的な鼻づまり
・短気、イライラ
・多動、落ち着きのなさ
・不適切な笑い
・お酒に酔ったような感じ
・菓子や果物などを甘いものを異常に欲しがる[マシューズ2012:61-62]

思考力や記憶力、イライラ、落ち着きのなさまでカンジダ菌が関係しているとは。そういえば発達障害と診断されたお子さんで便秘、アレルギー、菓子や果物を異常に欲しがる、というお子さんがいたことを思い出します。

日常生活に潜む化学物質への注意

このように体内の消化・吸収と発達障害との関連を述べたうえで、マシューズは食事療法の方法を詳しく述べています。食品添加物、化学構成物質を避け、必要な栄養を摂取する、というのが大きな流れです。「ADHDの人の中には、食品添加物を完璧に除去すると、症状が著しく改善する人もいる」[マシューズ2012:75]そうです。それだけ、食品添加物の影響は大きいということですね。

この間、食事や食品添加物についての本を何冊か読んできましたので、私自身は、だいたいパスできているかな、と思いました。ただ、まったく意識していなかったことも書かれていました。それは、プラスチックです。

「プラスチックは、接触したものに浸出することがありますから、プラスチックの容器で食品を保管したり水を入れてもち歩いたりすることは避けます。もちろん、プラスチック製の保存容器に入れて電子レンジで温めたり、食事の残り物を熱いまま入れることも絶対に避けてください。食べ物は耐熱ガラスの容器などに保存しましょう。」[マシューズ2012:200]

調味料の素材には気を配っていましたが、容器には無頓着で、ペットボトルに入っている調味料を使ってしまっていました。電子レンジで食べ物を温めることはしませんが、プラスチックトレイに入っている食材を買ってしまっていました。

完全にプラスチックを生活から取り除くことは難しいですが、少しずつ除去していきたいと思います。幸い、量り売りのお肉屋さんが近くにありますので!

引用・参考文献

マシューズ,ジュリー、大森隆史監修、小澤理絵訳、2012『発達障害の子どもが変わる食事』青春出版社