発達障害児を育てる「リアル」と、社会に踏み出す勇気:あじろふみこ『母、ぐれちゃった。発達障害の息子と娘を育てた16年』を読んで

本書は、タイトルにあるように、発達障害の息子さん、娘さんを育てたお母さんの手記です。発達障害のお子さんのリアルな生活が描かれています。
息子さんの場合、スーパーに行くと、氷の上に置かれている鮮魚を手づかみ、棚の下の方に並べられている酒瓶を順番に倒していきます。これでは買い物はできません。公園に連れていくと池に入って「亀」になって水を飲む。ベランダのプランターの土を食べる。このようなことが日常だそうです。そして、パニックを起こすと、平均40分はその状態が続くといいます。
本当にお母さんは大変な思いをされています。そのことがリアルに描かれています。発達障害について学ぶとき、最初の一冊としてお勧めしたいと思います。
「引きこもり」という選択と、社会との接点
さて、お子さんがこのような状態だと、周囲の人に迷惑をかけたくないと思い、なるべく外に出ない、という選択をしてしまうことも珍しくないと思います。いきなり走り出してしまうこともありますから、お子さんの安全面からも、家の中にいることを選ぶこともあるでしょう。
そのような親御さんの選択を否定することはできません。本当に大変なことですから。ただあじろさんは、それでも積極的に、お子さんを外に出します。
我が家の息子のような、いつ、どこで、何をしてしまうかわからない子どもを育てていると、家に引きこもっていたほうが、他人の目を気にする必要も他人に迷惑をかける心配もない分、ある意味ラクなのかもしれません。 でも、それって結局、親のためでしかない。他人に迷惑をかけて子どもが変な目で見られるのが嫌なのではなく、自分自身が「躾もまともにできないダメな親」などと非難されるのが嫌、というのが本心なのではないでしょうか。 人間は、いろいろな体験を積めば積むほど、その分、心や身体も成長していけると私は信じています。だから、息子が誕生してからというもの、息子にはどんどん外に出ていって、社会を知り、他者に触れ、できる限りのことに挑戦し、その中での失敗も、それを乗り越えてゆく過程も、全部味わって欲しいと思い続けてきました。 そのときに生じるかもしれない息子への非難は、私が防波堤になって全部受け止める。私自身は、どんなに非難されてもいっこうにかまわないと覚悟を決めたのです。[あじろ2017:31]
親御さんの「防波堤」を支える社会へ
お子さんによっては、外に連れ出すことが本当に難しいことがあります。私が以前関わったお子さんも、すぐに走り出すし、よその子を殴ってしまう状態でした。それで、親御さんから、外に出せないとご相談を受けたことがあります。
とてもまじめで、一生懸命なお母さんでした。お子さんのそのようなふるまいがお母さんのプレッシャー、ストレスになっていることが伝わってきました。ですので、皆があじろさんのようにしたらいい、と主張するつもりはありません。
ただ、発達障害のこのような行動のために、経験がどんどん減っていくことが心配です。経験が減り、経験から学ぶことが減っていきます。
親御さんだけでなく、周りの大人がどれだけ支援できるのか、そのことが重要だと改めて思います。周囲が変わることで、外に出せないと悩んでいる親御さんの助けになるかもしれません。
引用・参考文献
あじろふみこ、2017『母、ぐれちゃった。発達障害の息子と娘を育てた16年』中央公論新社