吉濱ツトム『隠れアスペルガーでもできる幸せな恋愛』を読む。

アスペルガー症候群の恋愛パターンと「理想の恋愛」
吉濱ツトムさんの著作を、もう一冊紹介したいと思います。本書は、アスペルガー症候群、あるいは軽度な「隠れアスペルガー」と吉濱さんが呼ぶ方々の恋愛について書かれたものです。
アスペルガー症候群というとコミュニケーションが苦手、というイメージがあります。それを延長して考えると、恋愛は難しいのではないか、と思われるかもしれませんが、決してそうではありません。吉濱さん曰く、アスペルガー同士のカップルも多いそうです。
アスペルガー症候群の下位分類が示すように、タイプはさまざまですから、もちろん、恋愛パターンもさまざまです。ですので、以下に取り上げるものが、アスペルガー症候群の方、すべてに当てはまるわけではありません。一つのタイプだと思ってお読みいただければと思います。
吉濱さんがアスペルガー症候群の「理想の恋愛」として以下のように書かれていました。
「会いたいときに会ってくれて、それ以外は放っておいてくれる」
「用事がないときは、お互い連絡しない」
「何年付き合おうが、一緒に住むのはなし」
こういう都合の良い恋人であれば付き合ってもいいけれど、そうでなければ、別に無理して付き合うつもりはない。自分の今の生活は何ひとつ変えたくない。こういう人は、友達同士の付き合いも時間の無駄と思っているところがあります。[吉濱 2017: 120]
おそらく「孤立型」のアスペルガー症候群の方の場合でしょうか。そのような傾向にあること、容易に想像できます。
アスペルガー症候群の孤立型と統合失調質(スキゾイド・シゾイド)パーソナリティ障害は親和的だと言われています。そういう傾向のある方ならば、納得できますよね。
孤独への恐怖と「多重恋愛」の背景
その一方で、アスペルガー症候群の方が「多重恋愛」をする、という記述もありました。
このことを知人のカウンセリングをしている方に話すと、とても驚かれていました。アスペルガー症候群の人は隠し事ができないから、それは難しいのではないか、と。けれども、隠し事をする難しさよりも、不安の方が強い場合は、「多重恋愛」ができるのではないかと私は思います。まず、吉濱さんの書かれた部分を紹介しましょう。
2股3股は当たり前(多重恋愛)
アスペルガーの人の中には、多重恋愛を繰り返す人もいます。
アスペルガーの人は人付き合いが苦手なので、基本的には一人でいることを好みます。しかしその一方で、「一人では生きていけない」という思いも強く、恋人を切らさないようにしている人も少なくありません。なかには、2番目、3番目の恋人をキープしている人もいます。これは、対人恐怖よりも、「孤独」への恐怖のほうがつよいからです。[吉濱 2017: 149]
四六時中恐怖と不安にさいなまれているアスペルガー人は、なおのこと孤独を恐れます。それでも、集団の中にいるのは緊張するし居心地が悪い。だから、孤独から救ってくれる「恋人」をつくってキープしておくのです。[吉濱 2017: 149]
アスペルガーにはちょっとしたことを気軽に頼めるような友達があまりいません。だから、「生活の便」として恋人がいなければ困るのです。
なかには、アスペルガーの症状が悪影響を及ぼして、安定した仕事に就けない人もいます。こういう場合は、経済的な面で「一人では生きていけない」可能性が高いので、恋人に依存せざるを得ません。恋人はいわばセーフティーネットなのです。ひとつのセーフティーネットだけでは頼りないと思えば、2股、3股をかけているケースも珍しくありません。
僕の来談者の中には、10人近い異性と付き合っているという人が何人かいます。これは恋愛が好きで浮気を楽しんでいるわけではなく、不安でたまらないから恋人を増やすという、一種の強迫神経症のような状態です。10人近い恋人たちのために、常にスケジュールはびっちり。デートの合間に仕事をするといった生活で、睡眠もままならない毎日を送っています。
アスペルガーの人がそこまでするのは、将来に対する不安が人一倍強いからです。[吉濱 2017: 151]
生活のセーフティーネットとしての恋人、それが一人では頼りないと思えば、複数人も。それだけ不安が高いのだと思います。
吉濱さんは以下のようにも書かれています。
アスペルガーは「ものすごく寂しがり屋です。アスペルガー人には強烈な自己無力感があり、『自分一人では生きていけない』という思いを強く持っています。その恐怖から、『誰かと一緒にいたい』『寂しい』という気持ちを、人一倍強く抱いているのです。
しかし、アスペルガーの症状から、他人と一緒にいると苦しくなってしまう。独りでいたい。でも寂しい。誰かと一緒にいたい……こういう相反する気持ちが共存するのがアスペルガーなのです。」「気まぐれに人に近づき、触ろうとするとプイッといなくなる猫みたいなものです。」[吉濱 2017: 121]
「自分一人では生きていけない」という思いと、他人と一緒にいることの苦しさ。この狭間で辛い思いをしているのだといいます。私の知人の姿を思い浮かべてみても、納得できます。
アスペルガー症候群のストレスの大きさ
これは、必ずしも恋愛に限った話ではないのですが、アスペルガー症候群の方のストレスについて書かれている部分もありました。いわゆる定型発達の人とは、ストレスの感じ方が全く違うのだと言います。
アスペルガー人のストレスは「ちょっとイラっとする」などというレベルではありません。精神が壊れるか壊れないかという瀬戸際まで追い込まれるほど強いものなのです。それを解消するために、根源的で強烈な欲求のひとつであるセックスにはまり、依存症になってしまうアスペルガー人たちがいます。[吉濱 2017: 162]
彼らの抱えているストレスを、自分自身のもの重ねて理解しがちです。どれだけそのストレスが彼らにとって大変なことなのか、それを忘れずに関わっていかなければと改めて思いました。
文献
吉濱ツトム、2017『隠れアスペルガーでもできる幸せな恋愛』KKベストセラーズ