日々の生活と身体づくりから学ぶ発達支援:こより『支援者なくとも、自閉っ子は育つ』を読んで。

専門家以上に頼りになる「親のカン」
こよりさんは、発達障害と診断された2人のお子さんを育てたお母さんです。今では2人のお子さんは就職されています。本書は、こよりさんの子育てについて、障害児・者の体操指導に長年携わっている栗本啓司さんと対談されたものです。
こよりさんは地方に在住で、専門家や支援者に関わることは難しい環境でした。それでもタイトルにあるように「支援者なくとも」お子さんを育てていかれました。
こより 専門家より母親のカンの方が当たっていることは確実にあると思います。[こより2015:17]
このように、こよりさんは述べています。以前紹介した中田大地君も書かれていましたが、身近に生活している人の関わりが大切なのではないでしょうか。
頭だけでなく「身体」を使う大切さ
栗本さんは障害児・者の体操指導に携わっている方ですので、その面からの発言がありました。
栗本 現代の身体の使い方だと、生まれ持った身体の不器用さがなかなか修正されません。まず、しゃがまないし。その点農家の生活はフルに使うでしょ。ところが今のコンピューター社会だとよけいに頭使ってしまって、自閉圏のように活動が頭に偏りがちな人、頭でっかちの人はより頭でっかちになる。身体を使わなきゃいけない生活はバランスがよかったかも。[こより2015:26]
身体を使うことで脳も刺激されていきます。身体をフルに使う生活が、特にASD(自閉スペクトラム症)の人には大切なのだと思います。
パニックへの対応についても勉強になりました。パニックにどう対応するかということが重要なのではなく、パニックを起こさないことが重要なのだと言います。
栗本 泣いたら遅いんです。それを事前に察知するのはカン。
・パニックには事前に対応するのが一番。事前対応に一番必要なのは親のカン。カンを磨こう。[こより2015:32]
子どもの微妙な発信を感じ取ることができれば、環境を整え、パニックを起こさないで済むのだと思います。そういうことがわかるのは、やはり、身近に生活する人だからだと思います。
究極の目標は「生き抜くこと」――睡眠・排泄・食事の重要性
また、こよりさんの子育ての目標は明確でした。
こより 子育ての目標は最初から決まっていました。
・人に迷惑をかけない(親もそこに含む)
・親がいなくなっても生きていけるように働いてもらう[こより2015:38]こより 子育ての究極の目標は生かしておくこと。親がいなくなっても生きていけるようにすること。だからまずは、睡眠・排泄・食事。この三つを押さえないと。それがなんとかなっていないのに、親の会活動とかなんとかメンターとかやっても仕方ないと思うんですよ。でも不思議なことに、そこをひと手間省略して他の活動に熱心になる人も多いですね。[こより2015:38-39]
・子育ての究極の判断基準は生死。[こより2015:39]
ASDの人たちのわかりやすい困難は、心理的なものです。ですのでどうしても心理的な支援に目が向きがちだと思うのですが、こよりさんは、「睡眠・排泄・食事」を重視されています。
私もこの点に共感します。ASDの方は感覚過敏・感覚鈍磨で、身体上のトラブルを抱えているケースが少なくありません。睡眠障害の方も多いですし、偏食も少なくありません。また、ミネラル不足を改善したら発達障害の薬を飲まなくて済むようになったというケースもあります。身体を作っていくということが最も大切なことなのではないかと思います。
栗本さんは、睡眠と身体について次のように発言されています。
栗本 いくら薬を入れて寝ても身体は休まっていないんです。眠れる身体になって眠らないと休まらない。
栗本 動けるようになると食べられるようになる。運動量が上がる。おなかがすく。疲れるようになる。そうすると眠れるようになる。眠れないのはそのサイクルのどこかが欠けている。[こより2015:67]
映画『いただきます みそをつくる こどもたち』の子どもたちを思い出します。思いっきり身体を動かして疲れているから、食事をしておなかがいっぱいになると、すぐに眠くなるんですよね。そういった生活づくりが大切なのだと思います。これはもちろん、発達障害児・者に限ったことではありません。
抽象論ではなく、具体的な実践を
こよりさんは、本当に一つひとつ、子どもに寄り添って生活されています。例えば、白いうどんしか食べないお子さんに対して、お豆腐を細長く切って食べさせたりしています。少しずつ、その子に即して、こだわりをはずしていこうとされています。
教育の仕事は、このように具体的なことだと思います。「子どもに寄り添った指導が必要」といった抽象的な項目を暗記するだけではだめですよね。具体的にどうするのか、そこまで考えていくことが大切だということを改めて学びました。
文献
こより、2015『支援者なくとも、自閉っ子は育つ――親子でラクになる! 34のヒント』花風社